小さな民家
諏訪湖の東南には八ヶ岳がなだらかで広い裾野を持って田畑が続いている。
中に古い集落が点在し、そこの小さな空家の民家の相談があって見に行った。
細く曲がりくねった道の辻辻には道祖神やお庚申さまなどが祀ってあり、
近くには縄文のビーナスで有名な尖石遺跡がある。
人々が御柱に代表される神様と共に豊かに暮らしていることが伺える。
平屋で切り妻の南向きの正面に立つとこの地方独特の深い軒が目に入る。
屋敷の東西には八ヶ岳降しという強風から家を守る防風林が大きく育ってある。
とはいえ100年以上経っていると見られる民家は全体に西に傾き、
床や屋根は歪みかなり傷んでいる。
最近は手入れができなかったものだろう。
間取りは6畳4間の典型的な田の字型民家で、周囲に外便所と物置のある分散型の農家住宅である。
創建当時の健やかさと共にかつての生活を想像しながら調査をする。
これを現代に蘇らせるには技術的にもプラン上も費用的にも難しい。
幸いにも小さい民家ゆえ比較的費用はかからないだろうが、
果たしてこれを利用してくれる人が居るのだろうか…。
いたら新築ではとても不可能な豊かな空間を提案できるのだが…。
大工さんの技と地元の木材と独特の形が真似のできない宝である。
それを活かし、現代の用途に乗せるのだ。
小さな民家はそんな理解のあるお施主さんを待っているようだ。
川上