民家の話 その11
民家は新築以上の価値がある。
これまで民家の仕事に関わってきて気づいたことを話してきたが、特に感じたことは、民家は新築以上の質と価値があるということだ。
一般的に建物は新築した時が一番良くて、時間が経つと汚れたり傷んだりして愛着はあっても価値が下がってくる。特に使い勝手や用途が変わったりで機能面では劣ってしまう。特にコンクリートやプラスチック・新建材などが使われたものは劣化が著しい。たとえそれを入れ替えても新築時の価値までにはならない。

ところが木造の民家は違う。まず造った当時より丈夫になって暫くしてから少しずつ劣化が始まるが、電気や設備などの機能面を除けばその寿命は人間の6倍はある。更に時間が経つことによってのみ誰もが感じる『味わい』というものが増してくる。これは当事者よりも若者や外国人の方が直感で判っている。
民家再生を生業の小生も、古民家の機能をチョット見直すだけで新築にはない素晴らしい価値を感じるのである。自分の価値観を超えて新たな発見に出くわすのである。民家がそう言うのではなく、民家そのものに厳然と価値があるのである。
民藝のいう『用の美』ならぬ『用と美』である。そのことは疑問から確信に変わった。
世界を見渡せば新しいものの価値を模索しながらも古い価値もまた大切にしている。新しいものにだけに価値があり、古いものはダメという日本人だけの意識が恥ずかしい。
我々の祖先は与えられたモノを精一杯受け入れ、継承して積み上げてきた。これは貴重な財産である。
『古いものがない街は、記憶のない人間と同じだ』と言われている。勿体無いという言葉こそこの国のお家芸であった。そこに豊かさも込められている。
我々は新しいものへの創造はこれからも求め続けるであろう。
建築も古いものと新しいものの共存こそが新しい時代を切り開くことになるが、古いものの代表たる民家再生は新築以上の価値があり)新時代の切り札になると信じている。