お寺の改修
人生には幸運な出会いが必ずある。
代々地元で大きく和菓子の商いをされているご年配のお施主さんから
いくつものお店造りの仕事を頂いている。
仕事を通して人生についてもその都度沢山の教訓を頂いている。
ありがたいものだ…。
今回は菩提寺の塀を修繕したいとの相談があって北信のお寺に向かった。
その時は予想もしなかったが恐ろしい台風災害前の長閑な秋であった。
参道入口に一対の仁王が睨みつける堂々とした三門を抜けると静かな中庭に出た。
周囲に老樹の大木と両脇に石灯籠が控え、正面には瓦葺き大屋根の立派な本堂が建っている。
時を経て更に凄みを増した禅宗のお寺の伽藍である。自分が蛙になった気分だ。
ともかく本堂に向かってお辞儀をした後、お施主さんから回廊の修理について伺う。
本堂を囲っているそれは火頭窓が穿たれ、腰はなまこ壁風の仕上げとなっているが
風雪でかなり傷んでいる。
お施主さんはお寺全体を気にかけ今までも少しずつ自前で治してきたが、
これもいわば終活と冗談を仰った。
ものがものだけに直し方も難しい。
改修は目立たず既存は絶対的な価値を持ってしっかりあるから新しく造るより難しい。
直感的に判断し、先ず不陸とヨロビを直し基礎工事をしてから不朽した木部を取り替え、
腰壁のなまこ壁を正式に造る計画を提案した。
後日詳細な測量して具体的な改修設計図を起こし、
技術的に応えられる工務店を紹介しことに当たる計画を説明した。
お寺から逃げるように境内から出て振り返って見ると、入口横に掲示板があった。
日頃お寺の前にある言葉を何気なく見過ごしてしまうのだが、
この何気ない言葉が予想をはるかに超えて得心した。
自分も熟年となり、残された人生と信仰は歳と共に深く関わるものだとつくづく思う。
お寺は大事にしたい。
数日してお施主さんから催促があった。
その時は誰でもできる簡単な仕事ではないと言い訳をしたが、今急いで図面に向かっている。
川上