民家の話
住宅設計、それも主に木造の仕事で45年、今まで450件の仕事をしてきた。その4分の1の120件程が民家再生であるが、まもなく齢70になる。
再生という行為はその都度同じようなことを繰り返してきただけであるが、やる度に予想を遥かに越えた価値や新発見があって更に驚く。
手掛けた経験のある人なら誰でも感じるだろう。
40年程前、民家再生を始めた降幡氏に師事したことは幸運だった。そしてその教えを受け継ぐだけでも大変であったが、それと同時に民家再生の本質や方法論とは別の視点を感じることが増えた。このことはリノベーションとかコンバージョンや蘇生などの手法の多様性が拡がった。
そのこと自体はいいことであろうが時代の流行や自己顕示欲を煽っているようでやや本筋から外れた感がある。
ここに至りそもそも古民家とはどういうものであったかを考え直してみた。
更に『民家の再生』という仕事を皆で取り組み少しでもこの宝を残してほしいと思っている。
また独断と偏見でも次の時代に受け継ぐ上で伝えておかなくてはと強く思うようになった。
民家とは?を思いつくままに挙げてみる。
1 民家は無意識に造られてきた。
2 民家には地域性はあったがワンパターンであった。
3 民家の間取りは窮窟だった。
4 民家は安価にできた。
5 民家は僅かの職人と多くの素人が作ってきた。
6 民家の木材は良質でもなく乾燥材でもなかった。
7 民家が造られたのは僅か70年間だった。
8 民家はメタボリズムであった。
9 民家はごく簡単に造られたが大切に使われてきた。
10 民家には『用と美』がそのまま備わっている。
などである…
これらの事は意外かもしれないが特別のことではなかった。
その上で民家に学ぶ家づくりが如何に大切かを伝えたい。
機会があればこれから色々な場面で具体的に話したい。
川上