未来に向けて
日本建築士会連合会の情報誌の8月号に「この人に聞く」で日本建築専門学校校長吉江勝郎氏のインタビューが載っていた。
その中で吉江氏の師である、京都工専大名誉教授で専門校理事長の中村昌生先生の言葉が紹介されていた。
「日本の木造建築の伝統技術は、衰退の方向に向かっている。国土の景観も大きく変貌しつつある。木を使えば日本建築と考える人も多い。木を選び、木の性質を見極め、生かし、技を施し、組み立てるのが伝統技術である。
千年磨き上げられてきた技術を継承し、次代へ伝えていく使命を放棄して、日本の輝かしい未来が訪れるとは思えない。」
切実な叫びである。
木のこと一つ取り上げても大変な文化的財産である。
建築全般も当然のことだが、戦後になって急激に進歩や進化を目指している。
なのに伝統という宝の軽視による「退化」を感じるのは先生だけではあるまい。
新しさとは、一つには思いつきや奇抜さではなく、伝統や先人の心や技を熟知した後、現代人が絞り出せた形なのだろう。その域は悟りに近いものがあろう。
近道はなく、ひたすら古典を学ぶことが新しさの出口が見えるのかもしれない。
「見たこともないのに懐かしい。」という専門家の評価、また「歴史をやって来て、遠回りのようだが一番近道だった。」とは時代の建築家、藤森照信氏の言葉である。
信州が生んだ憧れの先輩である。
最先端を走る人は稀で 、普通人は歴史に敬意を払い、模写を続けることが大切なのであろう。
ともかく日本の輝かしい未来を期待するものである。
川上