「 本棟造り 」の民家よさらば
松本の郊外にあった本棟造りの民家と長屋門の嫁入り先を数ヶ月探していたが、叶わず壊されることになった。
かつての庄屋さんの屋敷構えである。
子孫である現在の所有者も色々手配されたが、苦労の甲斐もなく処分する決心をしたのである。
せめて最後を見届けようと現場に向かうと、所有者のご主人は”それでも”との思いで、記憶を残そうと思い出の詰まった家具類を運び出し、たくさんの写真をプロの写真家に撮影してもらったりしていた。こちらは所員皆で見にいって、照明器具や家具・建具・茶碗の一部などをとりあえず持ち出した。
その数日後、やはり気になって見に行くと予定通りに解体が進んでいた。
さらばである…。
西洋では考えられないことだそうだ。
日本を愛する一人として参考にはしたくない。
建物自体の再生は十分可能と見たが、なにより住まう人がいなければ、再生という行為は始まらない。
そして最も大きな予算の問題、住まい手の求める条件や好みなどすべての条件が揃わない限り再生工事には至らないのである。
今、新築で同じものをつくろうと思っても、こんな素晴らしい材料はなかなか手に入らないし、大変な技と時間がかかってしまう。勿体無いの一言である。
若者の解体職人は手際よく片付けている。
既に庭木や中門…が倒されていた。
石は転用が効くから、業者さんにはアプローチや敷石を残しておいて欲しいと頼むと快く引き受けてくれた。
暫く眺めていたがいつまでもそこに居るのは邪魔だろうし、いたたまれなくてそっと別れを告げた。
沢山の別れが今後も続くのだろう…。
川上