逃げと遊び
人生でも建築設計でも、完璧を目指すことは当然である。
しかし、目指してもできるものではない。神のみぞなせる技だろう。
今は孫が近くを元気に遊び走り回っている。しょっちゅう親に叱られながら上手くかわしている。逃げと遊びである。
そういう自分も、設計の時には仕事の中で遊び心でさりげなく工夫をしたり、苦しい納まりをかわす事もある。
古い民家や土蔵にも、よく観察していると見られるものだ。そして熟練の大工さんの仕事をみていると、木材の組み方の一つ一つに何気ない工夫が秘められていて、それを発見するたびに感心する。
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話し下手の職人さんが多い中、聞けば答えてくれる名人がいる。
木を活かすためには「木を殺す」「逃げを作る」「遊びを持つ」が大切だと
言う。
「最近の設計図は、木の雰囲気を活かすためとはいえ、設計に遊びも逃げもなく窮屈で、つくる方の大工にとってはあまり意味のないような手間や時間がかかり、やっていても面白くない」
と嘆く。ましてや殺すなんてことは解ってくれないとも。
土台の納まり、渡り顎や込み栓、枠回りではツノ柄や留め、また床と壁と天井の隅は巾木や回り縁がないと、単なる突きつけでは「逃げ」がないため隙やヒビが出てしまう。
無垢の木を使う事は理想だが、人と同じで個性も癖もあり、本来は一筋縄ではいかない。
それでも正面から向きあって活かすのが職人さんなのだ。
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大工仕事ばかりでなく建具も左官も瓦も…、全ての仕事に逃げや遊びがある。
日本の木造技術には、世界の他では見られない文化がある。
木を活かす技や工夫は世界遺産登録すべきだという人もいる。
設計者は、逃げや遊びも理解して事に当たるべきだと思う。
川上