かわかみ建築設計室

ブログ

民家の話 その12 民家は暗くてよかった。

かつて住まいは『寝ぐら』とも言った。

現代の住宅は一言で言えば、明るくて軽い。殆どの住まいが冬暖かくて夏涼しくて便利で快適でいわば『癒しの場』である。住宅メーカーもそれを煽る。

今も昔もそれは確かだが、昔の民家は総じて内部は暗かった。寝ぐらの語源はそのせいかもしれない。

幼い頃、昼間外から帰って潜り戸を入ると暗くて中が見えるまで暫く時間がかかった。冬はともかく、夏は涼しかったし、ホッとした時間が流れた。時には不安や憂鬱になることもあったが安堵の方が強かった。

ところで昔は日が出ると家族皆お天道様の下でこれでもかと明るい場所で活動する。日が暮れると家に帰って寝ぐらで疲れをとった。

また子供の頃、時には押入れや炬燵の中や卓袱台の下に潜って過ごしたことも思い出した。そこは暗く狭い場所なのに何かしら心地よかった。

昨今は外の明るい室内で仕事をするも家に帰っても明るい部屋を求める。仕事場は極端に言えば『戦場』で家は『癒しの場』でなくてはならないのに、果たしてそうなっているのか?。

人は何時もハッピーではない、辛い時も多々ある。時には逃げ場として暗い場所があってもよいのではと思う。光と影である。明るいところは何処にでもあるし必要だろう。

昔の人々の暮らしを思うと、そこには光と影があり、それを巧みに生かしていた。民家に暮らした人々は家の外と中の違いの中で無意識に光と闇とを巧みに取り込んでいた。とするなら民家の暮らしは豊だった。

もっと言えば昨今の影のなさは軽薄さだけがあって、深い思考が停止してしまっていることも思わされる。

改めて暗さを考え、明暗のリズムを取り戻し、豊かな住まいを蘇らせたいものだ。

川上

建築・まちづくりに関するお悩み、ご相談はこちらまで
TEL0263-33-8200
松岡フラスコ
go top